ハープ・アンサンブルのしらベ|”THE SOUND OF THOUSANDS STRINGS” BY HARP ENSEMBLE

LPレコード~デジタル変換シリーズ②
ハープ・アンサンブルのしらベ|”THE SOUND OF THOUSANDS STRINGS” BY HARP ENSEMBLE

(演奏)
東京ハープ・アンサンブル|Tokyo Harp Ensemble
(指揮・監修)
ヨゼフ・モルナール(A-3、5 B-1、2、3、6)
斎藤高順(A-1)
早川正昭(A-4 B-4、5)

《プロフィール》
ヨゼフ・モルナール
オーストリアのウィーンに生れる。ウィーン少年合唱団をへてウィーン国立音楽大学を卒業。イエリネックに師事。1952年NHK交響楽団の招きで来日、以来ずっと現在まで日本のハープ界の中心的存在で上野学園音大、国立音大、桐朋学園音大の講師として多くのハーピストを育てている。又イスラエルやフランスの国際コンクールの審査員であり、オランダ国際ハープ・ウィークやアメリ力のハープ協会総会にも演奏や講師として殆ど毎年参加している。日本ハープ協会会長、国際ハープ協会日本支部長。

斎藤高順(編曲)
1949年東京音楽学校(現東京芸大)作曲科卒業。作曲を信時潔、池内友次郎両氏に師事。ピアノを豊増昇、水谷達夫両氏に師事。指揮を金子登氏に師事。映画音楽(東京物語、彼岸花等)の作曲をはじめラジオ、TVの作品を数多く残す。又管弦楽、室内楽、ピアノ曲、歌曲等多方面に於いて作曲活動を行う。主な作品として吹奏楽では「ブルー・インパルス」「輝く銀嶺」「交響詩“かけがえのない地球”」、室内楽では「弦楽四重奏奏の為の5つの日本民謡」、ピアノ曲では「三つの宝石」等数多くある。ハープの作品としては「ヴァイオリンとハープと打楽器の為のコンポジション」がある。1972年6月より航空自衛隊航空音楽隊長。1976年4月より警視庁音楽隊隊長として現在に至る。

早川正昭(編曲)
東京芸術大学作曲科卒業。作曲を長谷川良夫氏に師事、指揮を渡辺暁雄氏に師事。1961年東京ヴィヴァルディ合奏団を結成。東京都交響楽団、日本フィル・ハーモニー交響楽団、東京フィル・ハーモニー交響楽団等数多くのオーケストラにて客演。又東京大学管弦楽団の名誉指揮者として貢献。1960年東京大学管弦楽団、1971、73、77年には東京ヴィヴァルディ合奏団と欧州公演を行う。1978~79年、文化庁派遣在外研修員として、西ドイツ、及びオーストリアに滞在。作曲家としても「レクイエム」「シャーンティ」「祈り」等を作曲、むしろ海外で演奏されることが多く、西独で作品も出版されている。現在、名古屋音楽大学作曲科教授、新ヴィヴァルディ合奏団指揮者。

〈SIDE:A〉
1.亜麻色の髪の乙女/La fille aux cheveux de lin
(ドビュッシー作曲・斎藤高順編曲)〈6重奏〉…2’10”
2.主よ 人の望みの喜びよ/Jesus, joy of man’s desiring
(バッハ作曲)〈2重奏〉…3’02”
3.狂詩曲「スペイン」/”Espana” Rapsodie pour Orchestre
(シャブリエ作曲・斎藤高順編曲)〈12重奏〉…5’32”
4.愛の夢/Liebestraume
(リスト作曲・早川正昭編曲)〈8重奏〉…4’46”
5.ボレロ/Bolero
(ラヴェル作曲・斎藤高順編曲)〈16重奏〉…5’57”
↓SIDE:Aの音源↓

〈SIDE:B〉
1.ピチカート・ポルカ/Pizzicato Polka
(J.シュトラウス作曲・斎藤高順編曲)〈8重奏〉…2’36”
2.フランス組曲「アノレマンド」/Franzosische Suiten “Allemande”
(バッハ作曲)〈4重奏〉…1’48”
3.アイネ・クライネ・ナハトムジーク/Eine kleine Nachtmusik
(モーツァルト作曲・早川正昭編曲)〈12重奏〉…4’44”
4.アランフェス協奏曲/Concierto de Aranjuez
(ロドリーゴ作曲・早川正昭編曲)〈10重奏〉…5’43”
5.シシリアーナ/Siciliana
(レスピーギ作曲・J.モルナール編曲)〈4重奏〉…3’41”
6.ヴァイオリン協奏曲第2番/Violin Concerto
(バッハ作曲・早川正昭編曲)〈16重奏〉…3’50”
↓SIDE:Bの音源↓

ハープの可能性を求めて/ヨゼフ・モルナール
“ハープ・アンサンブル”とは、この言葉の示す通り数台のハープが一緒に演奏する事をいいます。通常、2、3台が一度に使われるいくつかのオーケストラ曲とワーグナーのオペラの中で使われる8台のハープを除いては一台以上のハープが同時にステージに置かれるという事はめったにありません。ですから今日聴衆が見るのはステージの特定の所に置かれた、たった一台のハープです。歴史をふりかえってみると、我々はすでに古代エジプトの浮彫りに楽士のグループがハープを弾いているのを見る事が出来ます。さらにアイルランドにおいては戦士達が戦場に赴く前に非常に沢山のハープで讃美歌をかなでたという事が知られています。
ハープという楽器は常に特別な意味あいのある楽器として考えられてきました。この楽器には多彩な長い歴史があります。バビロンの頃からファラオの時代、そしてバイキング、アイルランドの吟誦詩人達(バード)、中世ドイツの叙情詩人達(ミンネジンガー)、11~13世紀フランスの恋愛詩人達(卜ロバドール)にハープが用いられました。又極東においては“Kugo”という名称で知られています。南アメリカやヨーロッパアルプス地方では民族楽器としてハープがあります。フルートやヴァイオリンが人の心を表わす楽器といわれ、又ドラムが人の体を表わす楽器とよくいわれるのですが、ハープは人の魂に触れる楽器であるという事が出来るでしょう。
このユニークなレコーディングをするにあたって、多数の幅広い曲目をハープというたった一つの楽器で演奏したという事について不自然であるという事は全くありません。ハープという楽器自身、他の楽器にはない非常に多くの可能性があるからです。ハープ自身の為に書かれた曲はもちろん、歌、ピアノ曲、オーケストラ曲その他この楽器の為に書かれたものでなくても、ハープで演奏してみると全く違和感がないのです。
我々は近年、今日に至るハープの著しい楽器そのものの改良をみのがすわけにはいきません。その結果は現在のグランド・ハープという形で発展しました。音域が広がり、ペダル・テクニックの発達した現在のハープは非常に大きな可能性があります。これまでのどんなハープ・レコーデイングにおいても、このレコードのようにこの楽器の持つ幅の広さやテクニックをこんなにまで表わされた事はありませんでした。16台ものハープによるレコーディングというのは、今までに行われた事はなく、ここに吹込まれている選曲も、かつて誰によっても考えられた事のないものです。しかし我々はここでこの楽器の可能性をあえて追求し、このよく構成され、すばらしい演奏者達のおかげで、このレコードを成功させることが出来ました。

心なごむ涼やかな音/相澤昭八郎
近頃、フルートやクラリネットなど同属楽器によるアンサンブルが盛んになっている。同属楽器のアンサンブルといえば、ひところまで大部分が弦楽器に限られていた。管楽器のアンサンブルである吹奏楽も古い歴史をもっているが、同種類の楽器による合奏体ではあっても、同属に属する楽器のアンサンブルではない。
ハープは本来独奏楽器であり、旋律と共に和音の演奏が容易となることから、伴奏楽器としても重要な位置を占めている。合奏も行われてきたが、10人以上のアンサンブルは比較的珍らしい。このアルバムの「ボレロ」(ラヴェル)や「ヴァイオリン協奏曲第2番(J.S.バッハ)の第1楽章のように、16台ものハープを連ねた例はそう多くはないだろう。
同属楽器のアンサンブルの特徴は、音色が均質でよく融け合い、はなはだメロウなサウンドをつくるところにある。同属楽器といっても、弦楽器などとちがってハープの場合は高音楽器、低音楽器という区別はないから、同一楽器のアンサンブルといった方が適当かもしれない。もちろん、ハープにもペダルのあるものとないものがあり、アイリッシュ・ハープをはじめとする民族楽器もあっていろいろだが、東京ハープ・アンサンブルは、オーケストラなどでみられるペダル付のグランド・ハープで編成されている。
このアルバムでは、ハープ特有の雅びた音が合奏で幅と力強さを加え、独奏とは別の表現力を発揮しているのが聴きものである。撥弦楽器のなかでは格段に音域の広いハープの合奏は、同じ撥弦楽器であるギターやマンドリンの合奏とはまったくちがった表情をもっている。名手ぞろいの東京ハープ・アンサンブルの演奏で、それがまた一段と涼やかな魅力に感じられる。

亜麻色の髪の乙女(ドビュッシー)〈6重奏〉
ドビュッシーは前奏曲と題した24曲のピアノ作品を書いた。これらは12曲づつ2つに分け出版されたが、第1集の8曲目がこの有名な美しい小品である。6台のハープの演奏は夢幻的で、透明感のあるドビュッシーの和音の美しさが、ハープの音色と、グリッサンド、トレモロなどこの楽器に特徴的な奏法で誠に効果的に生かされている。

主よ 人の望みの喜びよ(J.S.バッハ)〈2重奏〉
よく知られたこのコラールは、カンタータ第147番〈心と口と行いと生命もて〉の終曲にあてられている。バッハのワイマール時代1716年に作られ、全体は二部に分れているが、各々、終曲に歌詞を変えてこのコラールが歌われる。大きな合奏でなく、簡素な2重奏が原曲の敬虔な祈りの気分をよく伝えている。

狂詩曲「スベイン」(シャブリエ)〈12重奏〉
華ばなしいオーケストラ効果が聴きもののシャブリエの代表作が、大変エレガン卜な、それでどこかスペインのカラフルでエキゾティックな雰囲気が漂う、楽しげな小曲に衣がえしている。シャブリエはこの作品を39才(1880)の時に書いた。スペインを旅して耳にした民謡のメロディやリズムが、フランス人のシャブリエにこの曲を書かせる動機となったが、直接のきっかけはラムルー管弦楽団の主宰者シャルル・ラムルーの依頼によるものである。初演はラムルーの指揮によりパリで行われ、大変に好評であった。

愛の夢(リスト)〈8重奏〉
リストの数多いピアノ曲のなかでも、最も良く知られた作品の一つである。ところが、もとはピアノ作品ではなく、フライリヒラートという人の詩に作曲した歌曲で、同じタイトルのもう2曲と一緒に〈愛の夢-三つの夜想曲より〉と名付けられていた。後に3曲そろってピアノに編曲されたが、三番目のこれだけが有名になり、あとの2曲はあまり演奏されない。1847年頃の作曲とされ、4分の6拍子の夢見るようなメロディがハープによくマッチしている。

ボレロ(ラヴェル)〈16重奏〉
始めから終りまでボレロのリズムが変わることなく繰り返えされ、次つぎにオーケストラの楽器がメロディを奏しながら、しだいに和声を厚く音量も増していくラヴェルの管弦楽法の見本のような曲を、どのようにハープのアンサンブルに置き換えているかが聴きどころである。斎藤高順のアレンジは16台という最大の編成を巧みに扱っていて、リズムとメロディを重ねただけの単純な方法からだんだん編成を厚くし、声部の絡みを複雑にしてクライマックスへ盛上げている。曲は1928年、ロシアのバレリーナ、イダ・ルビンシテインの依頼で書かれた。後日、あまりに有名になったこの作品が、ラヴェルの代表作のようにいわれるのを、彼自身はあまり喜ばなかったと伝えられる。

ピチカート・ポルカ(J.シュトラウス)〈8重奏〉
弟ヨーゼフ・シュトラウスとの共作といわれ、弦楽器のピチカー卜の効果をとり入れたアイデアが面白い。彼のピチカー卜とハープは音の性質が似ていることもあって、ハープのためのオリジナル作品といってもおかしくないくらいイメージはぴったりしている。グリッサンドなど、むしろ原曲以上の効果かもしれない。

フランス組曲「アルマンド」(J.S.バッハ)〈4重奏〉
アルマンドはドイツの古い舞曲。バッハは組曲の第1曲目に好んでこの舞曲を用いた。このアルマンドは、バッハがケーテン時代の終り1722年頃に書いた6曲の〈フランス組曲〉のうち、最後になるホ長調(BWV817)の最初におかれている。原曲はクラヴィーアだが、ハープの古雅な響きもまたいい。

アイネ・クライネ・ナハトムジーク(モーツァルト)〈12重奏〉
上記の表題で広く親しまれているモーツァルトのセレナードト長調K.525の第1楽章である。全曲は4楽章で、1787年モーツァルト31才の作品。モーツァルト時代の器楽用セレナードは、パーティなどのための一種の実用音楽として書かれることが多いが、〈アイネ・クライネ…〉は作曲のきっかけがはっきりしていない。

アランフェス協奏曲(ロドリーゴ)〈10重奏〉
スペインの盲目の作曲家ロドリーゴが、1940年に作曲したギターのための〈アランフェス協奏曲〉の第2楽章を編曲したもの。アランフェスは中部スペインの地名で、王宮のある場所として名高い。ギターからより音域の広いハープに代って、表現にも拡がりがでている。

シシリアーナ(レスピーギ)〈4重奏〉
シシリアーナはイタリア、シシリア島の舞曲で、メロディアスな性格をもっている。これはレスピーギの代表作の一つ〈リュートのための古代舞曲とアリア〉第3組曲の第3曲で、弦楽五部の原曲から編曲された。もともとは16世紀の終りにつくられたリュート曲だから、この方がオリジナルに近い雰囲気とも思われる。

ヴァイオリン協奏曲第2番(J.S.バッハ)〈16重奏〉
パッハのヴァイオリン協奏曲で一番有名な第2番の第1楽章を16台のハープ合奏にアレンジしたもの。この協奏曲は、バッハが生きていた頃から広く愛好されていたという。作曲されたのはケーテン時代(1717~1723)で、バッハらしい大らかさと均整のとれた構成感がある名作である。作曲者の手でチェンバロ協奏曲(第3番ニ長調)に改作もされているだけに、ハープとの音楽的近親性も大きい。早川正昭の編曲はたいへんオーソドックスな配慮がゆきとどいており、原曲の味わいが十二分に生かされている。

東芝EMI株式会社 1980/9/5

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